2025年度の炭素材料学会技術賞、研究奨励賞、論文賞の各賞は、規定に基づき各選考委員会の厳正な審査により選出され、会長による評議員会への報告、評議員会の承認を経て、次のように決定されました。
また、炭素材料学会創立70周年を記念して制定された功労賞は、規定に基づき運営委員会より推薦され、会長による評議員会への報告、評議員会の承認を得て、次のように決定されました。
受賞者各位に対し、去る11月27日に開催の第52回通常総会にて表彰が行われました。会員の皆様にお知らせいたします。
功労賞
炭素材料学会運営委員会は、本会の発展に大きく寄与した各氏について、その功績大なることを認め、炭素材料学会功労賞を授与し敬意を表します。
京谷 隆 氏(東北大学名誉教授)
寺井隆幸 氏(東京大学名誉教授)
技術賞
「熱間静水圧加圧装置を利用したフラワー状数層グラフェンの大量合成方法の確立とその 事業化」
村松一生 氏(株式会社 インキュベーション・アライアンス 代表取締役)
村松一生氏は、フラワー状の数層グラフェンを、高品質で大量に調製する方法を開発し、その量産が可能であることを実証するとともに分散液として商品化することに成功した。同氏は、熱間静水圧加圧(HIP)処理を用いたガラス状炭素材料の開発研究を行う過程で、ガラス状炭素の気孔内に気相成長炭素が析出する現象に注目し、鋭意研究に取り組んだ結果、HIP 処理を利用して触媒・基板を用いることなく高効率で気相成長グラフェンを調製する条件を見出した。この手法で得られたフラワー状数層グラフェン(商品名:グラフェンフラワー)を各種溶媒に分散した分散液は 2010 年 11 月には研究機関向けに提供が開始され、これはノボセロフおよびガイムのノーベル賞受賞の翌月であったこともあり、大きく注目された。
同氏は、各研究機関と協力して、フラワー状数層グラフェンが燃料電池や電気化学キャパシタ用電極として有用であることを明らかにしただけでなく、冷中性子の干渉性散乱が特異的に観察されることを発見し、先端材料・デバイスの分析手段として注目される中性子線分析用の反射材への適用の可能性を示したことは注目に値する。さらに同氏は本学会の「炭素」誌ならびに「Carbon Reports」誌にフラワー状数層グラフェンに関する論文ならびに解説を掲載することで本学会からの情報発信にも務めており、伝統的な炭素材料の製造技術がナノカーボンの製造・用途展開に有用であることを広く周知したことは特筆すべきことである。
以上のことから、同氏の業績は炭素材料学会技術賞に値するものと判断される。
論文賞
「pH-triggered drug release from a nanosized metal–organic framework/graphene oxide composite」
Nusrat Sultanaa),b), Mohammed Zahedul Islam Nizamic), Seiji Obatab) and Yuta Nishinaa),b),*
(Carbon Reports 2025 (Vol. 4 No. 1), 62-72に掲載)
a) Graduate School of Natural Science and Technology, Okayama University, Japan
b) Research Core for Interdisciplinary Sciences, Okayama University, Japan
c) Mineralized Tissue Biology and Bioengineering, ADA Forsyth Institute, United States of America
本論文では、酸化グラフェン(GO)と金属有機構造体(MOF)を組み合わせた新規ナノ複合体を合成し、疎水性薬物の高効率な担持とpH応答性放出の検討を行っている。著者らは、従来のMOFが持つ高い薬物収容能とGOがもつ水分散性・官能基との相補的特性に着目し、湿式ボールミリングを用いた手法によりナノサイズのMOFとGOとの複合体(nanoMOF/GO)を作製した。その結果、単独のMOFでは困難であった生理条件下での安定性向上と、中性条件での早期放出抑制を実現しつつ、酸性環境での効率的薬物放出を可能とした。特に、本研究では代表的な疎水性薬物ピペリンをモデルとして用い、様々な分析手法を用いた多角的な評価により、ナノ複合体の構造特性と薬物担持・放出挙動の相関を体系的に明らかにしている。さらに、96時間にわたるpH制御下での放出試験において、GOの導入によってMOFの早期分解を防ぎ、腫瘍環境を模したpH5.5条件下で顕著な制御放出を示したことは、ドラッグデリバリーシステムの実用化に向けた重要な知見と言える。
以上のように本論文は、カーボン系ナノ材料の革新的な応用展開を切り拓き、特に医療分野における次世代ドラッグデリバリーシステム設計への道を拓くものであり、学術的完成度と応用的インパクトの両面で極めて高い価値を有する。よって、本研究は炭素材料学会論文賞にふさわしい業績と判断される。
「The density of ultrathin graphite films produced by the heat treatment of spin-coated benzimidazobenzophenanthroline ladder polymer films」
Yasuji Muramatsua),*, Shoma Akakia), Yuya Matsumotoa) and Yasushi Sonedab)
(Carbon Reports 2025 (Vol. 4 No. 3), 234-239に掲載)
a) Graduate School of Engineering, University of Hyogo, Japan
b) National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Japan
本論文は、ポリマー前駆体(benzimidazobenzophenanthroline ladder polymer)を熱処理することで合成される極薄グラファイトフィルムについて、その密度を実験的に決定し、膜厚との相関を体系的に明らかにした先駆的な研究である。著者らは、厚さ 41–300 nm の自立グラファイト薄膜を対象に、アセトンとヨウ化メチレンを用いた浮沈法により密度測定を行い、その値が膜厚の減少とともに直線的に低下することを示した。特に、最薄膜(41 nm)では ρ = 1.76 ± 0.01 g/cm3と、標準的な高配向性熱分解黒鉛(HOPG: 2.24 g/cm3)に比べて顕著に低い値を示した。この結果は、極薄グラファイトフィルムが高度に無秩序化したグラファイト層構造を有することに起因すると結論づけられた。さらに、軟X線吸収分光を用いた詳細な解析により、全ての試料がグラファイト構造を保持していることを確認するとともに、膜厚の減少に伴い配向度が低下し、局所的にアモルファス的あるいは多孔的な構造が増大することを明らかにした。このような知見は、グラファイト薄膜の基本物性を理解する上で不可欠であるだけでなく、X線吸収測定や電子デバイス応用において正確な光学定数や物性値を導くための基盤情報を提供している。
以上のように本論文は、グラファイト薄膜の密度という基礎的かつ未解明の物性に真正面から取り組み、精緻な実験手法と多角的解析によって学理的に重要な成果を提示している。カーボン材料科学の基盤深化と応用展開の双方に大きく寄与するものであり、炭素材料学会論文賞にふさわしい業績であると判断される。
炭素材料学会年会ポスター賞・学生優秀口頭発表賞表彰
炭素材料学会では、2004 年(第31回)年会より年会ポスター賞を設けています。また、2019年(第46回)より学生優秀口頭発表賞も新たに設けました。2025年(第52回)年会では学生諸君が発表したポスターおよび口頭発表を対象として、独創性・新規性, 学術・技術的貢献度、発表者の理解度、ポスターとしての完成度(論理展開の妥当性・読みやすさ・表現の工夫度)あるいは口頭発表スライドの完成度(論理展開の妥当性・見やすさ・表現の工夫度)などの項目について評価し、ポスター賞9件、優秀口頭発表賞4件を選考しました。ここに会員の皆様にお知らせいたします。
【ポスター賞】
渡邉千智
群馬大学 理工学部 物質・環境類 化学システム工学プログラム 尾崎純一研究室
「湾曲グラフェン構造上に形成したFeNxサイトのORR活性」
松本 遥
東洋大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻 ダイヤモンド研究室
「Pd担持繊維状ナノ炭素複合材料の合成と室温動作可能な水素センサの作製」
川口 遼
東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 西原研究室
「単原子Fe含有規則性炭素構造体の合成と酸素還元触媒への応用」
算用子晃哉
岩手大学大学院 総合科学研究科 理工学専攻 物質化学コース 表面反応化学研究室
「黒鉛層間白金-スズバイメタルナノシートの調製および構造」
野元信吾
関西大学大学院 理工学研究科 環境都市工学専攻 エネルギー材料研究室
「マリモナノカーボン担持を用いた直接ギ酸燃料電池用新規アノード触媒の開発」
山本弘樹
芝浦工業大学大学院 理工学研究科 材料工学専攻 先端材料研究室
「ソリューションプラズマを用いた,金属有機構造体およびヘテロ元素ドープカーボン系複合材料の作製と評価」
吉田和紘
京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 物質・材料化学専攻 ナノ物性化学研究室
「セルロース誘導体によるCNT抽出における溶媒の構造非対称性効果」
中澤金太郎
青山学院大学大学院 理工学研究科 理工学専攻 先端素子材料工学研究室
「グラフェン/Cr/Ag/Cr/グラフェン構造を用いた新しい透明導電膜」
Zhai Xiazhe
九州大学 総合理工学府 総合理工学専攻 宮脇・中林研究室
「マリンバイオマスの特性を最大限に活かした多孔質炭素ペレットのバインダーおよび賦活工程フリー製造」
【優秀口頭発表賞】
清水俊介
東北大学 多元物質科学研究所 西原研究室
「機械学習ポテンシャルを用いたポリマー結晶の炭素化シミュレーション」
久保 圭
信州大学 アクア・リジェネレーション機構 金子研究室
信州大学大学院 総合医理工学研究科 総合理工学専攻 物質創成科学分野 分子機能材料工学ユニット 酒井研究室
「陽電子消滅寿命分光法によるナノ細孔性カーボンのウルトラミクロ細孔構造解析」
田中宏明
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 物質・ものづくり工学専攻 武野・入澤研究室
「耐炎化不要プロセスで製造する炭素繊維の高強度化に向けた検討」
都丸大晟
九州大学大学院 総合理工学府 総合理工学専攻 宮脇・中林研究室
「メソフェーズピッチのメソゲン成分の化学構造が炭素繊維物性に与える影響」
