2000年度学会賞

研究奨励賞

「三元系黒鉛層間化合物の合成および特性に関する研究」
安部武志 京都大学大学院工学研究科助手

 安部武志氏は、黒鉛層間にある2種以上のインターカレートが相互作用しあうことで多彩かつ複雑な物理的、科学的特性を創出する可能性を持つ三元系黒鉛層間化合物の中から、塩化鉄系複層層間化合物およびアルカリ金属・有機溶媒系層間化合物を選び、その合成と物理化学的特性の解明を行い、大きな成果を挙げた。
 高ステージ構造を持つ塩化鉄層間化合物をベースに、酸、ハロゲン、ほかの金属塩化物を逐次的にインターカレーションさせることにより、複層層間化合物の合成に成功し、その生成メカニズム、複層構造を解明した。ラマン分光法による格子振動特性の解明を行い、黒鉛層の振動ピークの分裂化現象を初めて観測した。
 アルカリ金属を溶解したエーテル系溶媒を用いた溶液法による層間化合物の合成を幅広い溶媒について行い、その生成条件の確立、さらにその生成機構の解明に寄与した。溶液法では従来アルカリ金属・溶媒・黒鉛の三元系層間化合物が合成されてきたが、2-methyltetrahydrofuranを溶媒として用いると、溶媒分子を含まないアルカリ金属・黒鉛の二元系層間化合物が生成することをはじめて見出した。
 上記の有機溶媒中での三元系および二元系層間化合物の生成に関する研究成果を基に、黒鉛負極を用いたリチウムイオン二次電池の電解液に、エーテル系溶媒を添加することによって、電池性能向上に有効な表面被膜、すなわちSolid Electrolyte Interface (SEI) が形成し得ることを見出した。これにより表面被膜の生成機構の解明とリチウムイオン二次電池の高性能化の可能性が示されたものと考えられる。
 このように安部武志氏は、三元系黒鉛層間化合物の合成条件の確立、生成機構の解明、物理化学的特性の解明を通して、リチウムイオン二次電池の高性能化の可能性を示すなど、炭素材料の科学・技術に関し優秀な研究業績を上げており、今後さらに多くを期待できる。よって、同氏は炭素材料学会研究奨励賞の受賞に値するものと判断した。