2001年度学会賞

学術賞

「鋳型炭素化法によるナノ構造制御炭素の創製」
京谷 隆 東北大学反応化学研究所助教授

 京谷隆氏は、特異なナノ構造を有する物質の持つ空間を炭素化の場として用いる鋳型炭素化法を世界に先駆けて開発し、ナノ構造が精密に制御され、かつ特徴あるモルホロジーを持つ炭素材料を創製した。
 まず、層状構造を持つ粘土類の二次元空間を用いて、二次元上の非常に薄い黒鉛フィルムを創製るするとともに、そのプロセス、機構を明らかにした。この成果はNature誌に記載され、そのユニークな手法に対して国内外から多くの反響が寄せられた。また、分子レベルで制御されたゼオライトの三次元網目構造を鋳型つぃて、2000 m2/g以上の比表面積を持つ多孔質炭素を創製した。この成果は、賦活処理なしでこのような代表面積の多孔質炭素材料を合成できることをはじめて明らかにしたものであり、新たな表面機能を持つ炭素材料の開発のための新しい方向を示したものと考えられる。
 さらに、アルミニウム陽極酸化膜の一次元、ナノサイズ細孔を鋳型として、均一サイズのカーボンナノチューブの創製に成功した。この方法は、カーボンナノチューブを均一サイズで高純度製造できるまったく新しい方法として、国内外の注目を集めている。この方法によるとナノチューブを一方向に揃えて製造できることから、電解放出型ディスプレーの電子源として有望であると期待されている。さらに、この方法を応用すると、チューブ内部に金属を挿入でき、ナノサイズの粒子、棒あるいは細線を作り得ることを示した。この成果はアメリカ学会の機関誌で、最近における注目研究の一つとして紹介された。
 このように、京谷隆氏は鋳型炭素化法という革新的な方法を開発し、新しい物性、機能の期待できるユニークな炭素材料を創製し、我が国はもちろん世界の炭素材料科学の一層の発展に大きく貢献している。よって、同氏は炭素材料学会学術賞の受賞に値するものとした。

研究奨励賞

「酸化黒鉛を出発物質とする新規な層間化合物および熱分解炭素の合成と応用に関する研究」
松尾吉晃 姫路工業大学助教授

 松尾吉晃氏は、共有結合性黒鉛層間化合物の一種である酸化黒鉛を出発物質として、新しい層問化合物の合成およびその熱分解に生成する炭素の応用に関する研究において多くの成果を挙げている。
 ポリエチレンオキサイドやポリビニルアルコールさらにはそのCu(OH)2錯体などの高分子をその水溶液から酸化黒鉛中にインターカレーションさせた新しい層間化合物の合成に成功した。また、陽イオン系界面活性剤をインターカレーションさせ得ることを見出し、そのインターカレート量によって、界面活性剤のアルキル鎖間に生じるナノスペースを制御することができ、そのスペースに芳香族系分子が単分子で吸着し得ることを示した。また、界面活性剤をポリアニリンとイオン交換することによって、ポリアニリン・酸化黒鉛層問化合物を合成することに成功し、リチウムイオンニ次電池正極材としての性能を検討している。
 また、酸化黒鉛を種々の条件下で熱分解することによって得られる炭素が、リチウムイオンニ次電池の負極材として得意な挙動を示すことを見出した。
 このように、松尾吉晃氏は.酸化黒鉛を出発物質として新しい有機化合物とに層問化合物の合成に成功し、その電池活物質や吸着剤としての応用の可能性を示した。これらの研究業績は、炭素材料の科学・技術の発展に寄与するものであり、今後さらに多くを期待できる。よって、同氏は炭素材料学会研究奨励賞の受賞に値するものと判断した。