2006年度学会賞

学術賞

「炭素繊維の膨張化とその応用」
豊田昌宏 大分大学工学部応用化学科

 豊田昌宏氏は、ピッチおよびPAN系炭素繊維を硫酸などの無機酸あるいはギ酸などの有機酸を電解質とする水溶液中で、電気化学的にインターカレーションすることによって炭素繊維層間化合物を調製し、これを熱処理することによって膨張化炭素繊維を合成する方法を見出した。無機酸系の黒鉛層問化合物の急速熱処理によって、膨張黒鉛が生成することは古くから知られており、これを成型した黒鉛シート等は工業材料として広く用いられているが、膨張化炭素繊維は、旧来の膨張黒鉛とは異なった特徴的な構造的性質と結晶性を有しており、新しい形態の膨張化炭素材料と見なすことができる。膨張化の過程と膨張化に伴うナノメーターサイズ小繊維集合体への形態変化、微小化繊維の再加熱処理による黒鉛化挙動等は、炭素材料の化学と技術に新たな視点を導入している。一方、ミクロ孔も伴った発達したメソ孔、マクロ孔から構成される膨張化炭素繊維の細孔構造に注目した豊田氏は、これを電極とする電解質水溶液系電気二重層キャパシタ特性を評価し、面積比容量が著しく大きく、BET比表面積の割には質量比容量も大きく、エネルギーデバイス用炭素材料として優れていることを明らかにした。比表面積が比較的小さな膨張化炭素繊維がかなり高い質量比容量を示すことを踏まえて、そのメカニズムを構造的性質との関連において明らかにしつつあり、最適なキャパシタ電極炭素材料の設計の方向性を期待できる。さらに、ナノメーターサイズに微小化された炭素繊維の放出電流特性がカーボンナノチューブに比肩しうることも見出しており、FED電極としての可能性も示唆している。これら一連の豊田氏の研究業績は、機能性炭素材料の開発と応用に関する研究として新規性が認められ、学術的・技術的な観点からも炭素材料学会学術賞の受賞に適するものと判断した。

炭素材料学会論文賞

豊田昌宏* Beata Tryba*、**、a 光神富美** Sylwia Mozia* 津村朋樹***、b 伊藤栄記***、c 天尾豊* 稲垣道夫**
*大分大学工学部応用化学科 **愛知工業大学工学部応用化学科 ***(株)ナード研究所 a現所属:シシェチェン工科大学 b現所属:大分大学 c現所属:iPB
「Preparation and characterization of carbon-coated TiO2 photocatalysts -Hybridization of photocatalytic activity and adsorptivity for purification of water-」

(No.226号に掲載)

受賞理由
掲載なし

吉田明* 鏑木裕** 菱山幸宥***
*武蔵工業大学工学部機器分析室 **武蔵工業大学工学部環境エネルギー工学科 ***武蔵工業大学名誉教授
「熱分解炭素の黒鉛化のパラメーターとしてのラマン1次スペクトルGバンドの半値幅」

(No.226号に掲載)

受賞理由
掲載なし

炭素材料学会年会ポスター賞

炭素材料学会では、2004年(第31回)年会より年会ポスター賞を設けています。

平崎哲郎
横浜国立大学大学院環境情報研究員目黒・多々見研究室
「ポリマーナノコンポジットを出発原料にしたセラミックスナノチューブ及びナノアレイの作製」

宮岡裕樹
広島大学大学院先端物質科学研究科量子物質科学専攻水素貯蔵物質研究室
「金属水素化物と複合化した水素吸蔵黒鉛の水素放出特性」