2016年度の炭素材料学会学術賞,技術賞,論文賞の各賞は,規定に基づき各選考委員会の厳正な審査により選出され,会長による評議員会への報告, 評議員会の承認を経て,次のように決定されました。受賞者各位に対し,去る12月8日千葉大学けやき会館において開催の第43回通常総会の席上にて表彰が行われました。会員の皆様にお知らせいたします。
学術賞
「炭素材料の組織・構造解析のための顕微鏡観察と画像処理法の開発」
押田京一氏(長野工業高等専門学校教授)
押田京一氏の業績は,カーボンナノチューブ,グラフェンなどのナノサイズの炭素材料から,ミクロポーラスな炭素材料まで,種々の炭素材料を走査型電子顕微鏡,あるいは透過型電子顕微鏡から得られた画像を定量的に取り扱うことを可能にしたうえに,高度な画像処理技術を駆使して三次元的な構造解析を可能にし,炭素材料分野の構造解析を著しく向上させたことである。また,Carbon誌をはじめ,この分野のジャーナルに数多くの論文を投稿しており,その解析結果,技術も内外で高く評価されている。走査および透過型電子顕微鏡による観察像の画像処理技術は,それら顕微鏡を用いる分野で汎用性が高く,他分野へのインパクトは高い。また,炭素材料学会年会にも,ほぼ毎回参加し,発表されており,さらに炭素誌にも,論文発表のみならず総説,解説なども数多く投稿している。このほかにも編集委員,運営委員としても学会に貢献されている。これらの業績から,押田京一氏は,学術賞の授与にふさわしいと判断する。
技術賞
「鋳型法を用いた多孔質炭素「クノーベル」の工業製品化」
森下隆広 氏(東洋炭素株式会社開発本部長(兼)高機能ケミカル事業部長)
MgOを鋳型とする多孔質炭素である「クノーベル」は,多くの鋳型法を用いた多孔質炭素の中で,量産・工業製品化に至った数少ない例の一つである。この鋳型炭素は,森下隆広氏が学生時代から研究を続けているもので,独創性も高く,東洋炭素入社後に量産・製品化されており,鋳型炭素の生産技術を確立させたことは極めて高く評価できる。特に,製品が実用化にまで至ったことは,本炭素材が,市場で認知されたと考えてよい。
本材料は,この分野において関連する特許も幅広く取得しており,知的所有権も確立されている。開発された製品は,従来の活性炭の適用領域を超えて,医療分野まで広がっており,新聞などに掲載されているように話題性もある。このほか,炭素材料学会での発表,炭素誌への投稿もあり,炭素材料学会への寄与は大きいと考えてよい。これらの業績から森下隆広氏は,技術賞の授与にふさわしいと判断する。
炭素材料学会論文賞
「黒鉛ヒーターの高温における抵抗変化挙動」
(271 号,pp.2-9に掲載)
岡田雅樹 氏a),吉本 修 氏a),辰巳 誠 氏a),太田直人 氏b)
(a)東洋炭素株式会社東洋炭素生産技術センター,b)東洋炭素株式会社近藤照久記念東洋炭素総合開発センター)
本論文は,高温電気炉に用いられる黒鉛ヒーターについて,高温での電気抵抗の温度依存性を明らかにすることを目的としたものである。黒鉛材料の2000°Cを超える高温域での電気抵抗率の温度依存性については,温度とともに単調に増加するという観察や,反対に2000°Cを超えると減少する報告もみられる。さらに,抵 抗率減少の挙動は測定雰囲気や試験片の乾燥状態などに依存するといった報告もあり,相反する内容や様々な因子の影響が報告されているために,黒鉛ヒーターを用いた高温炉の設計者などに混乱をもたらしている。著者らは,最近,黒鉛材料を直接通電加熱して3000°Cまでの電気抵抗率を測定可能な装置を開発し,1000°C以下の極小値を経て3000°Cまで単調増加することを報告した。本論文では,黒鉛ヒーターを使用する実際の超高温炉において,運転中のヒーター抵抗を各種雰囲気中で測定し,抵抗変化に対する影響を考察した。
黒鉛材料の電気抵抗率は1000~3000°Cで温度とともに単調に増加したが,超高温炉で運転中の黒鉛ヒーターの電気抵抗は,通常使用されるアルゴン雰囲気中において2500°C以上の高温域で減少することを確認した。黒鉛ヒーターの電気抵抗について,ヘリウム,窒素,真空下における昇温測定や,黒鉛材料中の不純物濃度とその繰り返し加熱による変化,昇温速度の影響など,種々の因子を比較することによって,高温度域における雰囲気ガスであるアルゴンの電離による導電性の発現と,それによってヒーター抵抗が低下して観察される可能性を示した。また,様々な因子がアルゴンの電離にどのように影響するか考察し,従来の相反する観察結果を説明しうることを結論づけた。このように,本論文は実際の黒鉛ヒーターの高温での抵抗変化と各種因子の関係を明らかに示したことから,学術・技術的貢献度と波及効果において顕著であると評価され,炭素材料学会論文賞としてふさわしいものと判断される。
炭素材料学会年会ポスター賞
炭素材料学会では,2004年(第31回)年会より年会ポスター賞を設けています。2016年(第43回)年会では学生諸君が発表したポスターを対象として,独創性・新規性,学術・技術的貢献度,発表者の理解度,ポスターとしての完成度(論理展開の妥当性・読みやすさ・表現の工夫度)などの項目について評価し,13件選考しました。ここに会員の皆様にお知らせいたします。
藤郷貴章
千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻 資源反応工学研究室
「エッジ上での水素移動現象の解明」
尾本洋次
東北大学大学院環境科学研究科先進社会環境学専攻 佐藤義倫研究室
「脱フッ素化を経由した欠陥再配列による単層カーボンナノチューブの特性制御」
加藤勇斗
千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻 有機ナノ界面化学研究室
「カーボンナノチューブ混合高分子アクチュエータのエレクトロスピニング法による作製」
佐々木達也
千葉大学工学研究科共生応用化学科 資源反応工学研究室
「炭素化した芳香族化合物のエッジ構造の定量化」
仙田貴滉
千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻 資源反応工学研究室
「等方性ピッチ系炭素繊維の生成過程の解明」
「モデル化合物を用いた酸化グラフェンのXPS解析」
堀江真未
岩手大学理工学部 表面反応化学(白井)研究室
「黒鉛層間白金ナノシートによるα,β- 不飽和アルデヒドの液相水素化 触媒作用」
柳沢拓真
山梨大学大学院医学工学総合教育部応用化学専攻 宮嶋研究室
「ヨウ素処理を利用した鋳型ポーラスカーボンの水吸着特性」
中塚和希
大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻 山下研究室
「炭素担持Coサレン錯体の熱処理によるシングルサイト触媒の調製とその触媒性能」
石井大樹
千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻 資源反応工学研究室
「構造制御された含硫黄炭素材料の調製」
圓城寺祐介
千葉大学工学部共生応用化学科 資源反応工学研究室
「炭素材料のジグザグ・アームチェアエッジの構造制御」
横山幸司
東北大学大学院環境科学研究科先進社会環境学専攻 佐藤義倫研究室
「脱フッ素化により合成した窒素含有単層カーボンナノチューブの酸素還元触媒活性と耐久性の評価」
濱中颯太
兵庫県立大学大学院工学研究科応用化学専攻 物質計測化学研究グループ
「放射光軟X線吸収分光法と第一原理計算によるホウ素注入黒鉛の局所構造解析とXANESの予測」